交換留学レポート7月号(ドイツ ハンブルク大学)
文学研究科後期博士課程 木戸紗織
今のハンブルクを表す言葉を挙げるとすれば、それは間違いなくFu?ballfieberでしょう。これは、「サッカー熱」という意味ですが、本当にそんな病気があるのではないかと思うほど、今ハンブルクの街はサッカー一色です。南アフリカで開催されているサッカーワールドカップ――日本でも非常に盛り上がっていると思いますが、ドイツも例外ではありません。
商店では旗やユニホームなどの応援グッズとともに、ドイツ国旗の「黒?赤?金」をモチーフにしたワインセットやお菓子の詰め合わせなどが売り出されています。中でもとりわけ興味深いのは、バーベキュー用の食材や道具が並んでいることです。天候が安定し日が長くなる6月は、屋外で過ごすのに最適なのでしょう。親戚や近所で集まってバーベキューをしながらサッカー観戦を、というキャッチコピーにドイツらしさを感じます
ハンブルク大学の学食
大学も負けてはいません。ハンブルク大学には学食が三ヶ所ありますが、どこも参加国の旗や応援グッズで華やかに飾られ、大会期間中、アフリカ料理と参加国の名物が日替わりで提供されます。また、近隣の大学共催で学生によるサッカートーナメントやテーブルサッカー大会も企画されており、見るだけではなく自らも参加するという環境に、サッカー文化が生活に深く根付いているのを感じました。
元留学生宅で開幕戦を観戦
さて、開幕当日。私は去年市大に留学していたドイツ人学生の自宅に招かれて、一緒に開幕戦を観戦しました。彼の話によると、前回のドイツ大会のときも親戚中が集まって一緒に観戦したそうです。なるほど、試合を見ることはもちろんですが、大勢で集まること自体が楽しく、互いの健康を確かめあったり新しいメンバーを紹介したりする絶好の機会です。バーベキューをすれば、大いに盛り上がることでしょう。
パブリックビューイング会場
(日本対オランダ戦)
市内に設けられたパブリック?ビューイング会場の興奮は、とても言い表すことができません。ここはもともと年三回訪れる移動遊園地の敷地なのですが、大会期間中はパブリック?ビューイングのために開放され、大きなモニターとともにソーセージやビールのスタンドが立ちます。ドイツ戦がある日はこの会場が応援グッズを身につけた人でいっぱいになるのですが、熱心なサッカーファンだけかと思いきや、あらゆる世代の人が家族やカップルや友人同士で会場を訪れ、スポーツ観戦というより社交場のような雰囲気です。誇らしげに往年の名選手のユニホームを着た人や、手をつないで人波を横切る老夫婦も見かけます。彼らもまた、試合内容だけでなく大勢で応援するという雰囲気をも楽しみに来ているのでしょう。
さらに、ここではドイツ戦に限らず全試合が放映されるため、試合ごとにハンブルク在住の様々な外国人がやってきます。私もここで日本戦を観戦し、出会ったばかりの留学生や企業で働く方々と一緒に応援しました。面白いことに、対戦する相手チームの応援団がすぐ隣にいるため、歓声とため息が同時に上がります。しかし、いいプレーに関してはチームに関係なく会場全体から拍手が送られました。
留学生の多い寮は、市内とはまた違った盛り上がりを見せています。私が住む13階では、参加国のナイジェリア人、カメルーン人、アメリカ人、そして日本人が試合結果に一喜一憂し、慰めあったり一緒に喜んだりしています。たいていジンバブエやマラウイなど参加国以外の寮生も集まってみんなで一緒に観戦するのですが、ナイジェリア戦のときは決まってナイジェリア出身の友人がテレビの前で監督のように指示を飛ばし、シュートの足の角度を自ら実演して見せるなど、人一倍熱心に応援していました。試合の後は、みんなでご飯を食べながら試合結果を分析したり、早くも翌日の試合を予想したり、まるでスタジアムの興奮がそのままここにあるようです。大会にちなみ、南アフリカの中にある王国レソト出身の友人が手料理をふるまってくれたこともありました。サッカーをきっかけにより彼らと親密になったことで、私にとって遠い土地だったアフリカが少し身近に感じられるようになりました。同じように、彼らにも日本のこと、アジアのことを知ってほしいと、私も積極的に会話に参加しています。
ワールドカップはまだまだ続きます。私も今しばらく、このハンブルクの興奮を友人達と一緒に味わいたいと思います。