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脳などのさまざまな器官に存在している新しい光受容タンパク質の分子特性の解明に成功

脳などのさまざまな器官に存在している新しい光受容タンパク質の分子特性の解明に成功
—動物のもつ未知の光受容能の解明の第一歩—

本学理学研究科の寺北明久教授、小柳光正准教授らのグループは、ヒトを含むさまざまな動物の脳や内臓などに存在している視物質※様のタンパク質(Opn3)が、実際に光をキャッチして光の情報を生体(神経)の情報に変換できることを、Opn3類似タンパク質の解析から世界で初めて明らかにしました。本研究の成果は、日本時間3月12日(火)午前4時以降に米国科学アカデミー紀要電子版に掲載されます。 (※視物質:目でものを見るために光をキャッチしているタンパク質。視物質がキャッチした光情報が神経の情報に変換され、脳で処理されて色やかたちが見える。)

  • 発表雑誌:米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)
  • 論文名:"Homologs of vertebrate Opn3 potentially serve as a light-sensor in non-photoreceptive tissue"
    「脊椎動物Opn3のホモログは光受容とは無関係な組織において光センサーとして働く」
  • 著者:Mitsumasa Koyanagi, Eiichiro Takada, Takashi Nagata, Hisao Tsukamoto and Akihisa Terakita(小柳光正、高田英一郎、永田崇、塚本寿夫、寺北明久)

概要

 ヒトを含め哺乳類は目でのみ光を感じることができるとされていますが、脳など目以外にもOpn3とよばれる光受容タンパク質に類似した遺伝子が発現していることが知られていました。もし、このOpn3という未知の遺伝子の産物(タンパク質)が光受容タンパク質として機能することがわかれば、哺乳類が目以外の場所でも光を感じている可能性があるので、大変注目されてきました。
 今回の研究では、魚と昆虫のOpn3類似遺伝子の産物が、体内のどこにでも存在するタイプのビタミンA誘導体を発色団※2として結合し、繰り返し利用可能な“リサイクル型”の光受容タンパク質として機能することが明らかになり(図1)、動物はこれまでに知られていない方法によっても光を感じて、その情報を未知の生理機能に利用している可能性がはじめて示されました。また、これらのタンパク質の遺伝子を人為的に細胞に導入すれば、細胞の状態を光を使って繰り返して操作できることが明らかとなったことから、Opn3類似遺伝子の光遺伝学※3的な利用の可能性も示しました(図2)。

図1:本研究で明らかになったOpn3が持つ分子特性

図2:本研究成果から期待されるOpn3の光遺伝学への利用

今後の展開

 脳などに存在するこの光受容タンパク質がキャッチした光情報がどのような「思いもつかない生理機能※4」にかかわるのかについての解明が期待されます。また、Opn3はホルモンなどの化学物質受容体に代表されるGタンパク質共役型受容体(GPCR※5)の1種です。そのことから、実際にOpn3を生きた動物に遺伝子導入することにより、それら化学物質の生体への効果を、光を使って迅速かつ一斉に調節して詳細な解析が可能になるなど、本研究成果は光を使った生命現象の解明をめざす光遺伝学の分野の発展を加速すると期待されます。

(用語解説)

※2 発色団:一般にタンパク質は可視光を吸収することはできない。視物質などの光受容タンパク質は、小分子(ビタミンAの誘導体)を結合し、「色」づき、可視光を吸収可能となる。この、色づくための小分子を発色団とよぶ。

※3 光遺伝学:光受容タンパク質の遺伝子を標的細胞に遺伝学的手法を用いて導入し、その細胞を細胞外から光を用いて人為的に操作する方法を用いた研究。これまでに、マウスの脳内の神経細胞に光受容タンパク質を導入し、そのマウスの行動を光により制御した研究等が知られている。

※4 思いもつかない生理機能:これまでに視物質やその仲間にキャッチされた光情報は形や色を見る視覚や生体リズムの調節に利用されることが分かっている。Opn3がキャッチした光情報は既知のものとは異なる機能と関わる可能性があり、その機能をさす。

※5 GPCR:神経伝達物質、ホルモン、味やにおい物質など、さまざまな分子をキャッチするとGタンパク質という情報伝達分子に情報を伝える受容体。ヒトには約800種類のGPCR遺伝子が存在し、それぞれが異なる分子や情報の受容に関与しており、創薬の重要なターゲットとして注目されている。